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池谷裕二先生を迎え、「医療とAI」テーマに討論 200人が視聴

30周年記念事業

2022.05.06

挨拶に立つ杉林堅次学長

「未来創薬と予測」と題して講演する杉山雄一特別栄誉教授

「AIと脳、そして医療へ」をテーマに語る池谷裕二?東京大学大学院薬学系研究科教授

進行を務めた学長特任補佐の四十竹美千代教授(左)とともに記念撮影


「医療とAI?現状と未来像」をテーマとしたシンポジウムを4月28日に、本学東京紀尾井町キャンパスで開催しました。このシンポジウムは本学30周年記念事業の一環として企画した「レクチャーシリーズ」のキックオフイベントとして開かれ、脳科学者としても活躍する薬学博士?池谷裕二氏(東京大学?大学院薬学系研究科教授)を特別講演者に迎えました。会場で参加した30名ほどの専門家や学生に加え、オンラインでも約200名が視聴し、医療とAI(人工知能)の今後について議論を交わしました。

冒頭、挨拶に立った杉林堅次学長は、未来学者のレイ?カーツワイルが2045年を「シンギュラリティー(技術的特異点)の到来」と位置づけ、コンピューターがヒトの脳の処理能力を超えるようになるだろうと予測していることに触れ、「科学者の倫理観を合成したうえで、AIをどう使うかを議論していかねばならない。若い世代には、変わってはいけないもの、変わらなければならないものを理解して勉学に励んでほしい」と述べました。

続いて、杉山雄一特別栄誉教授が「未来創薬と予測」と題して講演し、膨大な作業とコストを要する医薬品開発に、AIがもたらした変化について解説しました。杉山特別栄誉教授はまず、薬効、体内動態、毒性いずれの観点からも至適な化学構造を選び出したり、薬効のばらつきや、薬の飲み合わせによる副作用を予測したりといったAIの活用が、医薬品開発を大幅に効率化させ、既に欠かせなくなっていることを説明しました。その一方で、AIは正確無比な判断をくだすものの、それに至った根拠を示さない「ブラックボックス」であるため、責任の所在を明確にするのが困難であることについても言及し、こうした問題をクリアにするためのさまざまな方法論を、多くの研究者が提案していることを紹介しました。

さらにビッグデータ時代を迎え、近未来の臨床試験は、多数の候補者からAIが最適な被験者を絞り込み、その体調をリアルタイムでチェックするといった効率化が予測されることにも触れ、「これからの生命科学における発見は、天才のひらめきや偶然の幸運に頼る必要なく、AIに学習させた結果によって生み出されるようになるかもしれない」と語りました。

特別講演者の池谷裕二?東京大学大学院薬学系研究科教授は1970年代後半~80年代に流行したビデオゲーム「ブロック崩し」をAIが攻略する過程を例に、ディープラーニングを分かりやすく説明し「人工知能ブームの立役者であるディープラーニングがそれ以外の機械学習と違うのは、画像処理が得意だということ。いわば人工知能が目を持ったようなものだ」と解き明かしました。

第4次産業革命(Society5.0)が急速に進み、医療の世界においてもAIによるカウンセリングが支持されるなど、AIがさまざまな仕事をこなすようになっているなか、池谷教授は「人間の在り方そのものが今問われている」とし、自身が手がける「ERATO池谷脳AI融合プロジェクト」での取り組みについて説明しました。このプロジェクトでは、人間の意志を直接機械に伝える技術「ブレイン?マシン?インターフェイス(BMI)」を用い、脳に情報を書き込んで、能力を拡張?増幅させる試みを行っています。AIによってネズミが方位を把握したり、心拍数をコントロールしたり、スペイン語と英語を識別できるようになったりする様子が紹介され、さらにその能力がAIのスイッチを切ったあとも継続することを池谷教授が説明すると、会場からは驚きの声が上がりました。

医療においては、皮膚や髪の毛の画像を送信すると、すぐに診断するアプリがパイロット的に使われ始めるなど、IBM、マイクロソフトをはじめとする異業種が医療用AIを次々に開発し、モバイルテクノロジーで「治療」する時代に入っていることを説明。「錠剤ではなくアプリを処方される時代になれば、医療費削減の切り札としても有効だ」と、池谷教授はAIがもたらす医療の新たな可能性をさまざまな側面から示しました。

一方で、AIによる医療の実用化には、患者が納得するかどうか、誤診や事故が起きた場合誰が責任を負うか、社会通念をクリアできるか、などといった問題が立ちふさがっていることにも触れ、「テクノロジーがあるからといって、何でも使ってはいいわけではない。人間の敵はAIではなく、AIを悪用しようとする人。人間同士が良好な関係を保てないと、AIのポテンシャルは引き出せない」と、池谷教授は指摘しました。

パネルディスカッションでは、「AIはどこに向かえばいいのか」「AIを介して人と人をつぎ、知識や知能を共有しようとすると、人間そのもの、知識そのものの在り方に問題が生じるのではないか」といった質問や意見が会場から寄せられました。「AIと人間では得意分野が違う。共同作業によって効果を上げることを目指す時代がしばらく続くが、医師よりAIの方が診断の精度が高くなる可能性も十分ある。今の価値観で判断せずに、制度設計を急ぐ必要がある」(池谷教授)、「AI科学が進み、マルチサイエンスの時代になれば、圧倒的な確率でがんが治るようになるのではないか。プリンシプルを理解させるためのサイエンスが大切だと思っている人が大半だが、サイエンスの評価、真理探究の価値観を変えていかなくてはならない。それが若い研究者の使命だ」(杉山特別栄誉教授)と、未来の科学、次世代の研究者に期待を込め、会を締め括りました。

「レクチャーシリーズ」は現代社会が直面する課題や、科学や技術が未来にもたらすさまざまな可能性など多様なテーマをアカデミアならではの視点で掘り下げる連続講座です。今後も多様なテーマを取り上げ、随時開催していきます。